「ベートーヴェン デスマスク」で検索している人が知りたいのは、亡くなった作曲家の顔を直接型取った石膏像ではないでしょうか。ベートーヴェンのデスマスクは1827年の死後に制作された顔型です。画家ヨーゼフ・ダンハウザーが制作に関わり、現在はボンのベートーヴェン・ハウスが、その顔型に由来する複製の写真と解説を公開しています。
ただし、「目を閉じたベートーヴェンの石膏の顔」がすべてデスマスクとは限りません。1812年には、生きている本人の顔を型取ったライフマスクも作られました。この記事では公式の実物写真に進めるリンクを示し、1812年と1827年の違い、後世の複製、制作日をめぐる記録を詳しく解説します。
ベートーヴェンのデスマスクの実物写真はどこで見られる?
最初に見るなら、ベートーヴェン・ハウス(Beethoven-Haus Bonn)公式デジタルアーカイブがおすすめです。写真だけでなく、作者・年代・収蔵番号が併記されているため、「いつ作られた、何の写真なのか」を確かめられます。
① デスマスクの写真|1827年の顔型に基づく資料 P 7
公式資料P 7|デスマスクの写真を見る。このページで公開されているのは、ヨーゼフ・ダンハウザーが1827年に制作した顔型に基づく、1890年ごろの石膏複製です。複数の方向から撮影した画像があり、元の陰型の来歴も説明されています。
② ライフマスクの写真|1812年の生前の顔型 B 77/b
公式資料B 77/b|ライフマスクの写真を見る。作者は彫刻家フランツ・クライン。本人が生きている時期に取られた型に由来する写真なので、デスマスクとの違いを直接比べることができます。
③ ほかの複製・写真も見たい場合
公式アーカイブ「Masks」には、さまざまな年代の写真・版画・複製が集められています。Totenmaske=デスマスク、Lebendmaske=ライフマスクと覚えておけば、ドイツ語の作品名でも区別できます。
デスマスクとライフマスクの違い|作者・年代・目的を比較
両方ともベートーヴェンの顔から型を取った資料ですが、本人が存命中だったか、死去後だったかが根本的な違いです。目が閉じていることだけでは見分けられません。
| 比較 | ライフマスク | デスマスク |
|---|---|---|
| 元の制作年 | 1812年 | 1827年 |
| 本人の状態 | 存命中 | 死去後 |
| 主な制作者 | フランツ・クライン | ヨーゼフ・ダンハウザー |
| 目的 | 写実的な胸像の制作 | 亡くなった顔の記録 |
| 制作の経緯 | 友人シュトライヒャー家の依頼 | 友人ブロイニングの了承 |
| 公式資料 | B 77/bを見る | P 7を見る |
1812年のライフマスクは、ウィーンのピアノ製作者アンドレアス・シュトライヒャーらの依頼から生まれました。ベートーヴェンの顔に石膏を塗り、鼻に差し込んだ管で呼吸してもらうという作業だったと伝えられます。息苦しさを感じた本人が最初の試みを中断し、二度目に成功したという説明が博物館の記録に残っています。
クラインは得られた顔型を参考に胸像を作りました。胸像に加えられた髪や目の表現まで、すべて直接型取られたわけではありません。顔型・胸像・肖像画は、それぞれ作られ方が違う点も押さえておきたいところです。
1827年のデスマスクは誰が作った?
ベートーヴェンは1827年3月26日午後、ウィーンの住居「シュヴァルツシュパニアーハウス」で亡くなりました。画家だったヨーゼフ・ダンハウザーは訃報を知ると、ベートーヴェンの友人シュテファン・フォン・ブロイニングに型取りの許可を求めました。許可を得て住居を訪れ、顔型の制作が行われたと公式資料は説明しています。
弟のカール・ダンハウザーも現場に同行したという記録があります。当日のすべての手順が確定しているわけではありませんが、亡くなった顔から凹凸を写した陰型を作り、そこから石膏の陽型を得るという仕組みで顔が残されました。
型を取る
陰型を作る
流し込む
後世には、得られた顔像からさらに型を取って複製が作られています。
ダンハウザーは死後の姿を写した絵も残しています。しかし、死の床を描いたリトグラフとデスマスクは別の資料です。画像検索で似た資料が出てきても、作品名を確認すると違いが分かります。
デスマスクの制作日は3月27日?28日?
ベートーヴェンが亡くなった日付は1827年3月26日です。しかし、デスマスクを型取った正確な日時については資料によって説明が違います。
| 日付 | 分かっていること |
|---|---|
| 1827年3月26日 | ベートーヴェンが午後に死去 |
| 翌27日朝 | ベートーヴェン・ハウスの展示解説が紹介する、有力な制作時期 |
| 3月27日以降 | 検死との前後関係を含め、史料や研究に異なる解釈がある |
| 1890年ごろ | 公式資料P 7に掲載された石膏複製品の制作時期 |
ベートーヴェン・ハウスの展示案内では、死去した翌朝にダンハウザーが顔型の制作を求められたと紹介しています。一方で、2021年に刊行された医学史論文は、関連する手紙や記録を比較し、検死後に型が取られたという見解も述べています。
「27日の朝に間違いない」「28日に間違いない」「検死の前後が確定している」とは書けません。写真に付いた日付だけを見て結論を出すのではなく、元となる記録に差があることを知っておく必要があります。
デスマスクの「本物」は今も残っている?原型と複製を区別
「デスマスクが博物館にある」という言葉は、1827年に顔へ直接当てた型が残っているという意味ではありません。最初の陰型・石膏から作られた顔像・その後の複製品は別物だからです。
ベートーヴェン・ハウスの資料P 7によると、ダンハウザーが所有していたとされる元の陰型は現在残っていません。博物館が写真を公開するP 7の像は、ダンハウザーによる1827年の顔型に基づく、1890年ごろの石膏複製です。
1827年の顔型に由来する資料であっても、展示品そのものが1827年製とは限りません。「コピーなら偽物」という意味ではなく、どの時代のどの工程の資料かを見極めることが大切です。1887年に撮影された別の石膏像の写真も公式収蔵資料B 547で確認できます。
写真で顔が違って見える理由は?
1812年の生前の顔型と、1827年の死後の顔型は15年ほど離れています。本人の年齢や体調だけでなく、制作・複製の仕方や撮影時の光の当たり方でも、頬や口元の印象は変わります。
「解剖で耳の骨を取ったから、マスクの顔が小さくなった」と説明する個人ブログもあります。しかし、その見方を確定的な理由として採ることはできません。そもそも前述のように、検死と顔型制作の前後関係に異なる研究解釈があるためです。写真の見た目から特定の医学的処置や病名を断定するのは避けています。
また、1812年のライフマスクも閉じた目の形をしています。これは存命中でも石膏で型を取るときに目を閉じていたためです。「目を閉じている=デスマスク」ではありません。作者・年・収蔵番号がいちばん頼りになります。
デスマスク・ライフマスク・胸像・肖像画の見分け方
目を閉じた顔だけなら制作年を確認する
閉じた目が写る写真には、生前に作られたライフマスクも含まれます。作者がクラインなら1812年の生前の資料、ダンハウザーなら1827年の死後の資料という区別から確認しましょう。
髪や衣服まで付いた像は胸像の場合がある
クラインは顔型をもとに胸像を制作しました。顔の型で取れない髪などは彫刻家が仕上げたとされます。直接の型と彫刻を組み合わせた作品なので、単なる顔型の石膏像とは制作方法が違います。
「死の床」を描いた絵と顔型は別の作品
ダンハウザーが制作した死の床の絵もありますが、平面の絵と立体の石膏型は別作品です。顔型を見たい場合は、博物館で「Totenmaske」という名称を探してください。
ベートーヴェンのデスマスクに関するFAQ
デスマスクの写真は日本から無料で見られますか?
はい。ベートーヴェン・ハウスの公式アーカイブでは、収蔵資料の画像と解説を閲覧できます。画像の再利用条件は閲覧とは別に確認してください。
ベートーヴェンは何歳でデスマスクを作られましたか?
1827年3月26日に56歳で亡くなり、死後に顔型が取られました。1812年のライフマスクは、生きていた40代前半の顔を記録したものです。
デスマスクとライフマスクは同じものですか?
別です。生前のライフマスクは1812年にフランツ・クラインが、死後のデスマスクは1827年にヨーゼフ・ダンハウザーらが制作しました。
デスマスクは死後何時間で取られたのですか?
翌27日朝とする説明が有力ですが、正確な開始時刻や検死との順番には史料の食い違いがあり、厳密な経過時間は断定できません。
デスマスクのオリジナルは博物館にありますか?
1827年に作られた元の陰型は現存しないと公式資料にあります。博物館では後世の石膏複製や写真を確認できます。
この記事で参照した資料
ベートーヴェン・ハウス|デスマスク P 7:原型の来歴と1890年ごろの石膏複製。
ベートーヴェン・ハウス|ライフマスク B 77/b:1812年の制作経緯。
ベートーヴェン・ハウス|主要展示品:死去と翌朝の型取りに関する展示説明。
ベートーヴェン・ハウス|Masks:生前・死後の型と写真の一覧。
Roland Sedivy(2021)|医学史論文の書誌情報:検死と顔型制作の日付に関する別の研究解釈。
ベートーヴェン・ハウス|ダンハウザーの死の床の絵:立体の顔型とは別の作品。
ベートーヴェンの生涯・難聴も詳しく知りたい方へ
ベートーヴェンの仕事や晩年の経歴は、ベートーヴェンの人物総合記事で紹介しています。聴力低下と病歴が気になる方は、耳が聞こえなくなった時期と難聴を扱う記事をご覧ください。ここではデスマスクとライフマスクの実物資料に焦点を当てました。
